
海外駐在員の立替精算。
経費の承認フローと改善のヒント
複雑化しがちな海外駐在員の経費精算。
立替対象費用の具体例や承認フローの課題、システム化・アウトソースによる効率化の方法まで、実務で役立つポイントを解説。
立替の対象となる経費・費用は?具体的な事例もご紹介

「立替費用」の考え方と傾向
海外駐在員は「海外勤務規定」に則り、現地でかかる個人的な費用の一部、または全額を会社に請求することができます。
請求できる項目や上限金額は会社によって異なりますが、基本的に海外で生活する上で、必然的に どうしても発生する項目が対象となります。
つまり、「日本で生活していたら発生しなかったであろう費用」は会社が負担するという” No loss, No gain”(損得が発生しない) の考え方に基づいた制度となります。しかし、厳密に実施されているケースは少なく、本来、駐在員本人が負担すべき費用も会社が負担するケースが多いようです。
その結果、会社にとって駐在員にかかる経費が膨らんでしまっているのが現状です。
今回は、この立替費用精算について具体的に深掘りしてみましょう。
立替精算の対象項目
- 子女教育費
現地でかかる子供の教育費です。地域にもよりますが、一般的に現地の日本人学校の費用(授業料、スクールバス代等)、もしくはそれに相当する現地校の費用を会社で負担します。インターナショナルスクールは金額が高額なため、例外を除き、認めていない企業がほとんどのようです。 - 医療費(健康診断や予防接種含む)
現地でかかる医療費に関しては、かなり複雑です。
日本から「海外旅行傷害保険」に加入して赴任するケースが多いですが、歯科、既往症は保険対象外なので、現地でかかった歯科治療代などは追加で費用が発生してしまいます。
最終的には、それを会社が負担することになります。アメリカのように現地の医療保険に半強制的に加入するケースもありますが、100%カバーされるわけではないので、ここでも追加の費用が発生します。
日本の健康保険 へ現地の医療費を請求することも可能ですが、手続きが煩雑な上、保険でカバーできる範囲が日本の医療費基準の70%でしかないため、海外の高額な費用を賄いきれません。
海外旅行者保険の掛け金や現地の医療費は年々上昇しており、企業にとって、駐在員にかかるコストをかなり圧迫しています。 - 語学研修費
赴任後、現地の言語を習得する目的で学校に行ったり、個人レッスンなどを受けたりするときの受講料のことです。
駐在員本人は赴任前に受講することが多いのですが、駐在員に帯同する配偶者は、赴任後に現地で受けるケースが多いと思われます。
一般的に、払い戻しは無制限でなく、期間・上限が定められています。 - 一時帰国費用
本人、または帯同した家族で、一時的に帰国した時の費用です。
一般的に現地での交通費、旅費、道中の宿泊費、日本での交通費などが含まれます。業務外に会社負担で帰国できる「一時帰国」には、帰国できる回数に制限がかけられています。
例えば、帯同家族の場合は年に1回、単身赴任の場合は年に2回などです。
日本国内での交通費も、「空港から実家まで」といった制限など、会社によって細かなルールが定められています。
この「一時帰国」とは別に「買い出し旅費」のような形で、日本食材が調達しづらい地域の駐在員に対し、食材が買える隣国までの旅費を会社が負担するケースもあります。
経費精算の承認フローパターンと、起こりがちな課題

海外駐在員の経費精算は、単に領収書を確認するだけの「仕事上の経費精算」とは大きく異なります。
まず、駐在員の申請内容を確認し、払い戻しをするかどうかの判断を「海外勤務規定」に基づいて承認を行います。
ただ、規定では大まかなルールしか明記されていない事も多く、別途「項目ごとの個別の承認ルール」を設けておく必要があります。
過去に人事担当部内で議論された事例を参考にして判断する事も多いですが、時代の変化や状況の違いなどから、必ずしも同じ結果にならない場合もあります。
駐在員本人の置かれている状況を考慮した上で、不利益にならないよう判断する事が大切です。
通常費用の申請は、メール等で申請書と領収書を送付し、人事担当に提出するのが一般的です。
駐在員数が多い企業では、ひとつひとつ書類を確認し、ルールと照らし合わせて承認作業を行わなければならず、大変労力のかかる作業です。
この承認作業については、「本社が一括して管理している場合」と「現地法人に任せている場合」に2つのパターンに分かれます。
経費の承認作業
メリット | デメリット | |
---|---|---|
本社で一括管理 |
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現地法人に一任 |
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最近の傾向として、駐在員の福利厚生を見直す企業が増えています。
今回のトピックである「立替精算」は、駐在員本人も管理者側も相当な手間と労力を伴います。
システム化やBPO(企業が自社の業務プロセスの一部を、外部の専門業者に委託すること)で現状を改善することはできますが、もっと根本的なところで改革する動きが出ています。
それは、福利厚生をパッケージ化するというものです。つまり、「ある一定の範囲の福利厚生の枠組みの中で、本人がどの福利厚生を使うか選択できる」という仕組みです。
何をもって枠組みを設定するのかは議論の余地がありますが、本人も十分納得できるものであれば、管理側の負担もかなり軽減されると思いますので、今後広がるのか注視しておきたいトピックです。
システム化、アウトソースで経費精算の効率化を
パターンによってメリット、デメリットのある経費精算の承認作業ですが、効率化する方法もあります。
- 申請・承認の作業をシステム化する
海外駐在員の管理システム化は、国内社員に比べて、あまり進んでいないのが実情です。
費用精算に関しても、国内社員用の精算ツールを使用できないため、メールで対応するしかなく、標準化することが難しい作業となります。
承認作業は過去の履歴が判断材料となることも多いので、システム化を進め、ノウハウを蓄積することが肝要です。 - 承認作業をアウトソースする
単純な領収書の突合作業とは違い、内容をルールと照らし合わせて承認する作業は、システムを導入しても自動化が難しい場合が多いようです。
システム導入後も手が回らないといった、リソースにも問題がある場合は、業務全般をアウトソースすることも考えられます。
システム導入後は、①駐在員の経費申請、②アウトソース先の担当者が同システム内で承認作業を行う という流れになります。
企業の人事担当者はアウトソース先の作業内容をシステム内で確認可能のため、常にクオリティーチェックすることができます。
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西本浩
米国にて大学卒業後、米国大手会計事務所の税務部門に15年間勤務。主に日本人駐在員の確定申告業務に従事。2009年に帰国し、日本人駐在員の業務管理BPOのサービス構築、業務管理ツールの開発などを手掛ける。2020年より駐在員管理システム「AGAVE」開発の助言や導入のコンサルなども兼務する。海外給与計算や現地での納税の仕組みに精通しており、関連するセミナーに多数登壇している。