
海外給与計算を効率化するには?よくある悩みと解決法
海外駐在員の給与計算は、複雑な規定、為替変動など、担当者を悩ませる要素が山積みです。本記事では、海外給与計算に精通したコンサルタントが、計算手順と悩みを整理し、効率化におすすめなツール導入のメリットをわかりやすく紹介します。
海外駐在員の給与計算とは?

まず、「海外給与計算」とは?
海外駐在員は日本の本社に在籍したまま海外の子会社で仕事をする「在籍出向者」となります。本来給与の全額を実際に働いている現地法人から支給されるべきですが、日本の社会保険料の支払いを継続する場合や、家族が日本に残留し生活費が必要な場合など、ほとんどの場合で「日本円給与」と「現地通貨給与」の二本立てで給与が支払われることとなります。
本人の給与水準や帯同状況、赴任先などを鑑み、いくらの円給与、いくらの現地通貨給与を支払うかを計算するのが「海外給与計算」となります。
海外給与計算でやるべきこと
基本情報の更新作業(洗い替え)
基本情報とは、各駐在員の給与や賞与などを合わせた理論年収、扶養人数情報、及び各都市の生計費指数(暮らすうえで必要となる費用を数値化し、地域間や時系列で比較できるようにした指標)と為替レートのことです。一般的に6月、7月に給与改定作業を行い、年度開始月である4月に遡って遡及計算をします。
表計算ソフトでの改定作業
上記の洗い替え情報をExcel等の表計算ソフトに投入し「新しい給与」として計算します。手当の計算根拠が変更されたり、何か制度が変わった場合は表計算ソフトを組みなおす必要があり、確認作業に膨大な時間がかかる場合があります。改定作業は短納期の場合が多く、人為的ミスが起きてしまう可能性も低くありません。
本人と現地拠点への通知
支給額が決定したら、新しい給与額を本人へ「給与改定通知書」として配布する必要があります。また、現地法人の給与担当者へ新しい現地通貨での支給額を伝える必要があります。駐在員や拠点が多い企業の場合、この作業に多くの工数を取られてしまいます。
海外給与計算の計算ロジック
会社によって作成される「海外勤務(給与)規定」が計算根拠となります。しかし、規定は会社によって内容が異なる為、海外給与計算も個社ごとに違っており、100社あれば100通りの海外給与計算の計算方法が存在します。それ故「海外給与計算パッケージ」のような市販されているものは存在せず、各社独自にExcel等を作りこむ必要があります。
例えば、給与の計算ロジックには、下記の3種類があります。
設定方法 | 購買力補償方式 | 併用方式 (海外本給方式) |
ネット保証方式 |
---|---|---|---|
考え方 | 「赴任先でも本国と同等の生活レベルを保つ」ことを目指し、海外労務コンサル会社が提供する生計費指数と為替レートをもとに、現地通貨での給与を支給する方法です。 年に一度など定期的に、最新の生計費指数や為替レートを反映して給与を見直します。 |
国内の理論給与(ベースとなる給与の手取相当額)を支給したうえで、赴任による追加費用をカバーする海外生計費補助(手当)を加えて支給する方法です。 | 国内勤務時の可処分所得(自由に使えるお金)を下回らないように海外赴任時の給与を設定し、支給する方法です。 最初の給与額は「購買力補償方式」と同様に生活費指数や為替レートを用いて決めることが多いですが、その後は「現地の消費者物価指数(CPI)」などの物価変動に合わせて調整します。 |
メリット | 多くの企業で採用されており、一定の信頼性があります。 | データを購入する必要がなく、コスト負担を減らすことができます。 | 初年度以降、データを購入する必要がなく、コスト負担を減らすことができます。 為替レートの急激な変動に左右されにくく、安定的に運用ができます。 |
デメリット | 生計費指数のデータを少なくとも毎年購入する必要があり、手間やコストが発生します。 | 手当の根拠が明確でない場合が多く、為替レートが円高に動いた場合などは加算給(手当)を減額せざるを得ないため、対応力に欠けます。 | 最初の給与設定時に、適正な設定ができるかが重要となります。 |

海外給与計算に多い悩みとは?
海外給与計算では、しっかり社内で議論をおこなわないと、のちのち人によって不公平感が出てきてしまうかもしれません。
ここで、海外人事担当者によくある悩みや問題点をご紹介します。
海外給与計算のよくある悩み
給与計算と運用ルール
海外給与規定はある意味取決めのようなものですので、具体的な運用方法が詳細に定められているわけではありません。文章等で定められた規定を表計算ソフト(Excel等)に落とし込むには、しっかりした運用ルールを設ける必要があります。
給与計算と運用ルール
駐在員は世界中に散らばっており、先進国もあれば後進国もあります。物価が高い国もあれば安い国もあり、生活環境が厳しい国もあります。どうやって不公平感なく給与額を決定するかは難しい問題です。
各種手当の金額を定める
海外勤務手当、単身赴任手当、ハードシップ手当など、駐在員特有の手当があります。それらの金額の妥当性は、社内でどう判断すれば良いのか難しいところです。
表計算ソフトに設計し計算する
多くの企業がこの計算を表計算ソフト(Excel等)で行っています。関数を多用するため、計算内容を理解できるのは社内でも一部の社員に限られ、属人化しやすい業務となっています。その結果、安定した運用が難しい状況です。
効率化にはツール導入がおすすめ

表計算ソフト運用において直面する様々な悩みには、ツール導入という手もあります。
ツール導入には、このようなメリットがあります。
正確性の向上
システム化によって人為的ミスを大幅に削減し、複雑な計算も瞬時に処理できるため、常に正確な給与計算が可能になります。これにより駐在員からの信頼度が向上し、給与に関する問い合わせも減少します。
業務効率化
手作業から解放されることで、人事部門の業務効率は飛躍的に向上します。給与計算に費やしていた時間を、戦略的な人事施策の立案や駐在員家族のケアなど、より付加価値の高い業務に充てることが可能になります。
属人化の改善
特定の人しか海外給与計算ができないというリスクを改善する必要があります。システム化することで、限られた人しか理解できない計算式や不安定なエクセル運用を解消できます。
コスト削減
初期投資は必要ですが、長期的には運用コストを大幅に削減できます。人件費の削減だけでなく、ミスによる損失や是正にかかるコストも抑えられ、総合的なコスト削減が期待できます。
海外赴任管理システムAGAVEでは、そんなお悩みを解決します。海外駐在員の人事担当者の業務を効率化する様々な機能がございます。詳細はこちらをご覧ください。

西本浩
米国にて大学卒業後、米国大手会計事務所の税務部門に15年間勤務。主に日本人駐在員の確定申告業務に従事。2009年に帰国し、日本人駐在員の業務管理BPOのサービス構築、業務管理ツールの開発などを手掛ける。2020年より駐在員管理システム「AGAVE」開発の助言や導入のコンサルなども兼務する。海外給与計算や現地での納税の仕組みに精通しており、関連するセミナーに多数登壇している。